今さら好きだと言いだせない
 山本さんの言葉を聞いた俺は、一瞬天を仰いだあと、イラつきながらハァーッと息を吐きだした。
 あの人が俺を嫌いでも一向に構わないが、やることが陰険で幼稚すぎる。
 背にしている壁を思いきり拳で殴りたい。そんな衝動にかられるほど、俺はかなりムカついた。

「あちこちで女にちょっかい出しまくってるのは、俺じゃなくて高木さんでしょ!」
「芹沢、声がデカいよ」

 山本さんに指摘されて、好奇な目で見られていないかとあわてて周りの様子をうかがったが大丈夫のようだ。

 営業は営業一部から三部まであり、それぞれ三つの課に分かれている。
 その中でもここ、営業一部は大口の顧客を抱える花形の部署だ。

 高木さんも元々はここの所属で、営業職を希望していた人だったのに、うちの部署に異動になった。
 表向きはただの社内異動だが、裏にはきちんとした理由があるらしい。

 それが、高木さんの女性問題だ。
 今年の新入社員だった営業事務の女性ふたりに対して同時に手を出し、修羅場になったと聞いた。

 ふたりのうちどちらかと付き合うのならまだしも、高木さんはどちらもつまみ食いをした感覚にすぎなかったようだ。本当にゲスでタチが悪い。


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