今さら好きだと言いだせない
「芹沢!」


 所用で営業部に赴いた俺は先輩の山本さんにピックアップされ、部屋の片隅に連れて行かれた。
 山本さんは俺が営業部で一番懇意にしている気の合う人だ。


「どうしたんですか?」

「なんか……お前の良くない噂が出回ってる」


 営業部はいつもバタついているとはいえ、男ふたりが部屋の隅でヒソヒソ話なんて怪しすぎる。そう思うものの、俺の良くない噂ってなんだ?


「実はめちゃくちゃ女好きで、会社でも女性社員が何人も遊ばれて捨てられてる、って」

「はぁ?! 俺、社内恋愛は一度もしてませんけど?」

「それなのになぜか、お前が食い散らかしてることになってる」


 人の噂なんていい加減だ。尾ひれが付いて、事実とはかけ離れた情報が広まるのだから恐ろしい。


「おそらくだけど、アイツが言いふらした可能性大だ。……高木」

「高木さんが? 俺、なんか恨まれてます?」

「ただの嫉妬だろ。イケメンでモテるお前の評判を下げてやれ、みたいな」

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