あの日に交わした約束は、思い出の場所で。
「結人くん素敵な人じゃない!礼儀正しいし、背が高くてイケメンだし」

帰りの車内でお母さんが言う。

「さっきも言ったけど、結人くんはただのクラスメイトだよ。彼氏じゃないから。それに、そういう関係にはならないの」

お互いがなんとも思っていなければ、男女の友情は成立する。


「先のことなんてわからないじゃない」

先のこと。先のことがわからないなら、この先私と遥はまた……

よくない癖だ。希望も期待も持たない、……そう決めたばかりなのに。


でも私はすぐに、遥とのことを想像してしまうんだ。

「奈央、まさかまだ遥くんのこと思ってるわけじゃないわよね?」

お母さんをにらみつけたい気持ちだ。今そのことで悩んでるっていうのに……


「……まさか。七年も前の話だよ」

七年も思ってるなんて一般的にはやっぱりおかしいのかもしれない。

「そうよねー。奈央に色恋沙汰がなさすぎて、お母さん心配してたのよ。でも奈央の周りに結人くんみたいな素敵な男の子がいるってわかって安心したわ」

遥のことだけを思ってたから、他の人との恋愛なんて考えたこともなかった。

でも、もしかしたら気づいてないだけで、私の周りには素敵な人がいっぱいいるのかな。

「だから、結人くんは違うって言ったじゃん」

「まぁ、初恋は叶わないって言うしねー」

人の話も聞かずひとりごとのようにつぶやいたお母さんの言葉が、私の心にさらに重くのしかかった。
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