アンドロイド・ニューワールド
最初の授業は、数学です。

読んで字の如く、数字を学ぶ授業です。

が、数字を学ぶ授業のはずなのに、何故か中高になるにつれて、XだのYだの、πだの、謎のアルファベットまで出現し始めるので。

数字という名称は本当に正しいのだろうか、これは詐欺なのではないかと、私は疑問に思います。

ともあれ。

この授業は、私にとってとても退屈な時間です。

何故なら、私には『Neo Sanctus Floralia』でも最先端の演算能力が備わっており。

一般的に、この歳の学生が習う数学の知識については、既に会得しているからです。

それどころか、もっと高難度の問題でも、すらすらと解けてしまうでしょう。

これはSクラスの『新世界アンドロイド』に限らず、Bクラスの『新世界アンドロイド』でも同様です。

つまるところ、

この程度の問題、余裕のよっちゃんという奴ですね。

しかし、周囲のクラスメイトを観察してみたところ。

頭を捻っていたり、難しい顔をしていたり、うんざりした表情を浮かべている生徒が、一定数存在するので。

恐らく彼らにとっては、とても難しい問題なのでしょう。

残念です。代わりに私が、教えてあげられたら良いのですが。

ですが私の場合、頭で理解しているというよりは、問題文を演算処理システムに入れると、自動的に答えが出てくる、という仕組みなので。

私自身が理解しているのかというと、怪しいところです。

つまり計算機と同じですね。

私の頭の中には、高精度な計算機が入っている、と認識して頂ければ結構です。

と、私が思っていると。

「そうですね、じゃあ次の問題を…」

と、数学教師は言いました。

先程から彼は、教科書に載っている問題文を参考に、黒板に新しい問題文を書いては、それを生徒に解かせるという行為を繰り返しています。

しかも彼は、出席番号順、席順に生徒を指名するのではなく。

その場に応じて、無作為に選び出した生徒に答えさせる、という方式を採用しています。

生徒にとっては、抜き打ちも同然です。

嫌われるタイプの教師ですね。

とはいえ、席順に当てていくと、端っこの席の生徒が標的にされやすいという、統計データがあります。

中間に座っているくらいが丁度良い、ということですね。

しかしこの数学教師は、席順や出席番号順で当てるタイプではなく。

先程から見たところ、無作為に…と言うか。

単に、たまたま目の合った生徒に当てる傾向があります。

その為、教師が黒板の方を向いているときは、生徒達も前を向いていますが。

教師がくるりと振り返り、生徒達の方に向き直るなり、

生徒達は、さっと視線を明後日の方向に逸らすのです。

恐らく、人間に備わった、本能的な危機回避能力に起因する現象なのでしょうが。

観察する分には、面白いです。

それにしても、何故わざわざ当てられないよう行動するのかは分かりません。

問題が分からないのでしょうか。

それなら別に、素直に「分かりません」と言えば良いだけの話だと思うのですが。

分からないことを分からないということに、何の抵抗があるのでしょう。

そもそも、人間は自分の知っていることより、知らないことの方が多い生き物です。

それが自分の生活に関係ない情報なら、特に。

例えば、隣の席の湯野さんが、今朝朝食に何を食べたのかなんて、クラスメイトの大半が分からないでしょう。

私も知りません。

パンかもしれないし白米かもしれないし、ブートジョロキアである可能性もあります。

このように、世の中分からないことだらけです。

故に、分からない問題を出されて、「分からない」と素直に答えることに、何故抵抗を覚えているのか、私は理解不能です。

もしかして「分からない」と答えると、何らかのペナルティがあるのでしょうか。

成程、その可能性はあります。

これは授業なのだから、あまり「分からない」「分からない」と繰り返していたら、

「この生徒は授業に対する意欲がない」と評価されてしまいかねません。

皆、それを避ける為に、敢えて「分からない」と言う機会を減らそうとしているのかもしれません。

納得しました。
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