アンドロイド・ニューワールド
それなのに、何故でしょう。

緋村さんは、呆気に取られたような顔をしていました。

…?

緋村さんは、車椅子に乗っています。

その理由は明らかです。彼には、足がありません。

両足共に、大腿部から下がすっぱりと切れてなくなっているのです。

お陰で彼の制服のズボンは、大腿部から下が空っぽでスカスカです。

布地の無駄遣いですね。

「…私、何かおかしなことでも聞きましたか?」

と、私は聞きました。

五体満足、という言葉があるように、その五体が満足していない人を見たら。

何故満足していないのか、何故当然人間にあるべきものが備わってないのか、疑問に思うのは当然です。

「いや…おかしいって言うか…。随分ド直球で聞いてくるんだなって…」

「…直球…?私は球技をした覚えはありませんが」

「…うん…」

と、緋村さんは困惑したように頷きました。

今何を考えているのでしょう。疑問です。

「それとも、私には教える訳にはいかない、特別な理由があるのですか?」

と、私は聞きました。

私が、『Neo Sanctus Floralia』についての情報を、外に流してはならないように。

彼もまた、安易に漏出してはいけない理由があるのかもしれません。

しかし。

「いや…そういう訳ではないけど…」

と、緋村さんは言いました。

特に、特別な理由がある訳ではないそうです。

「なら教えてください。何で足がないんですか?」

「…」

相手のことを知るには、内面的特徴よりも、まず外見的特徴について問い掛けるのが一番です。

誰しも、仲良くなりたい人に話しかけるとき、「あなたは優しいのですか?」と聞いたりはしません。

大抵、「あなたのバッグ素敵ですね、何処で買ったのですか?」とか、

「あなたの服はダサいですね。鏡を見たことはありますか?」とか、外見的特徴について問い掛けるのが、会話のきっかけになります。

従って私も、彼の最も特徴的な外見。

すなわち、車椅子に乗っていて、スカスカの制服のズボンを履いている理由について、尋ねるべきでしょう。

いきなり内面的特徴を尋ねるのは、失礼ですからね。

ここは、人間らしく、礼儀正しく相手のことを知る努力をしましょう。

すると。

「…久露花さんって」

と、緋村さんは言いました。

「悪意はないけど、遠慮もないね」

「…?どういう意味ですか?」

と、私は聞き返しました。

理解不能です。

「まぁ…。別に隠してる訳じゃないから、良いけど…」

「はい」

「小学校のとき…。交通事故に遭って」

「はい」

「そのときに…」

「なくしたんですか?」

「そう」

と、緋村さんは言いました。
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