若旦那様の溺愛は、焦れったくて、時々激しい~お見合いから始まる独占契約~

タクシーに乗った後、どんなシチュエーションで外したのか分からないけれど、渡瀬先輩が持ってきたということは、彼女がいるところでネクタイを外したということだ。

嫌な予感に押しつぶされそうで、ネクタイを持つ手が震えている。


「それ、彼の忘れ物よ。昨夜、蓮君はどこにいたと思う? ……私の家。私たちずっと一緒にいたの」


違う。彼は本社に戻ったはずだ。

心の中で必死に反論しても、動揺が広がり信じたい心を覆い尽くしていく。

胸が苦しくて、うまく呼吸ができない。

完全に怯んでしまった私とは打って変わって、渡瀬先輩は勢いがついたかのように流暢に言葉を並べ始める。


「あなたのところに行かないでって言ったら、私のそばにいてくれたの。蓮君に婚約者がいることが苦しくて堪らないって素直になれば、優しく慰めてくれた。ひと晩中よ。最高の夜だったわ。あんなに大切に抱かれたのは……」

「もうやめてください!」


我慢できなくなって話を大声で遮ると、重苦しい沈黙を経て渡瀬先輩は吐き捨てるように言ってのけた。


「本当に愛されているのはどっちかわかったでしょう? 今すぐ蓮君から離れて。話はそれだけ」


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