若旦那様の溺愛は、焦れったくて、時々激しい~お見合いから始まる独占契約~
数秒沈黙が流れ、渡瀬先輩は何か言いたげに震わせた唇を、ぐっと噛み締めた。
涙でいっぱいの目で睨みつけられ、私は息のむ。
「あなたは、自分が蓮君から必要とされていると思っているの? 本当に愛されているのはどっちかしら」
攻撃的に発せられた言葉に、私は何も返せない。
彼に対する揺るぎない想いへの自信はあっても、同じように彼から愛されているかというと、……その自覚は乏しく、自信もない。
黙り込んだ私へと追い討ちをかけるように、渡瀬先輩はぽつりと呟く。
「昨日蓮君、家に帰って来なかったでしょう?」
どうしてそれを知っているのかと驚き目を見開いた私へ、渡瀬先輩はバッグから何かを取り出して、差し出してきた。
恐々と受け取って、それが蓮さんのネクタイだと分かった瞬間、頭の中が真っ白になる。
「……どうして」
思わず発した言葉は、答えを知るのが怖くなって最後まで紡げなかった。
記憶を辿れば、確かに昨日の朝、蓮さんはこのネクタイをつけていた。
バス停で見かけた時も、つけていたと思う。