若旦那様の溺愛は、焦れったくて、時々激しい~お見合いから始まる独占契約~
「里咲さん、なんか暗いですね。どうかしたんですか?」
「そんなことないよ」と笑い返すも、納得いかないような顔で私をじいっと見つめてきた。そして、言いかけた言葉をため息に変える。
彼は富谷旅館の厨房で働く料理人の高梨君で、若いのに腕がいいと父や祖父の評価も高い。
彼が作ってくれる賄いはとっても美味しい。
「そうだ。都内で美味しい料理が食べられるオススメのお店ある?」
料理人なだけにそういうお店に精通しているかもと期待を込めて問いかける。
高梨君は小首を傾げて「うーん」と悩んでから、ちらりと私を見た。
「婚約者と一緒に行くんですか?」
「えっ……う、うん。そうだけど」
「それならここです。俺が腕を奮いますから、連れてきてくださいよ。里咲さんの婚約者さんの顔を拝みたいです」
思いも寄らぬ返しに、「えっ」と声が出た。
料理は自信を持って美味しいと言えるけれど、富谷旅館に蓮さんを誘うのは少し気まずい。
お互い気を使わない場所の方が良いと考えていた私に、高梨君が真剣な顔で「里咲さん」と呼びかけてきた。