若旦那様の溺愛は、焦れったくて、時々激しい~お見合いから始まる独占契約~
「俺年下だし頼りないと思いますけど、何か悩み事があるなら聞きますんで、いつでも声をかけてください」
「……あ、ありがとう」
かたい声音でそう告げてから機敏に頭を下げて、彼は颯爽とした足取りで廊下を進んでいく。
遠ざかっていく後ろ姿を見つめながら、私はそんなに暗い顔をしていただろうかと首を傾げた。
彼が言う通り、高梨君は私の一つ年下ではあるが、頼りないなんてことは全くない。
むしろ私よりしっかりしていて、よく気がつき、仕事で失敗して落ち込んでいると励ましてくれることが多い。
年齢が近いこともあって、富谷の従業員の中では、一番素の自分でいられる相手だ。
私もフロントに戻るべく歩き出す。
途中で宿泊客の何組かとすれ違い、そのどれもが男女のカップルで仲睦まじい。
彼らのように蓮さんと本物の恋人同士にはなれなくても、この偽りの関係だっていつまで続くかわからないのだから、そばにいられる時間を大切にしたいと思えた。
その後もやけに若い夫婦や恋人同士の客が目について、蓮さんへの切ない恋心が募っていく。
こういう時、仕事帰りに私の足は自然とヤツシロ本店へと向かってしまう。