若旦那様の溺愛は、焦れったくて、時々激しい~お見合いから始まる独占契約~
富谷旅館から老舗和菓子店ヤツシロ本店へ向かうのは、帰宅方向とは逆になるため遠回りになる。
通勤の沿線上には、ヤツシロの支店がいくつかあるけれど、それでも本店へ行ってしまうのには訳がある。
本社が本店のすぐ近くにあるため、もしかしたらタイミングよく蓮さんが立ち寄るかもと期待してしまうのと、私にとって思い出深い和菓子がここで売られているためだ。
売り切れじゃないといいなと心なしか急ぎ足になりながらヤツシロの暖簾をくぐると、年配の女性客と話をしていた和服姿の女将さん、つまり蓮さんのお母さんが私に気づき、にっこりと品よく笑いかけてくれた。
私も軽く頭を下げて、会話の邪魔にならないようにそのままショーケースへと歩を進め、お目当ての花を模した練り切りがひとつだけ残っているのを見て、ほっと息をつく。
花びらの一枚一枚にも職人の丁寧なこだわりが感じられ、もはや芸術品と言っていい。
ピンク色の可愛らしい見た目もあり、食べるのがもったいなく感じられてしまうほど。
女将さん曰く、作る手間を考えて本店でしか販売されていないのにも関わらず、大切な人への特別な贈り物として重宝されていて、人気の一品らしい。