若旦那様の溺愛は、焦れったくて、時々激しい~お見合いから始まる独占契約~
「こっちは売り物じゃなくて試作品。俺が作ったものだ」
「この兎を蓮さんが?」
「あぁ。作れるんですねなんて言うなよ。特別に持って帰ってきたんだから」
「ありがたく頂戴いたします」
「特別」のひと言に胸が熱くなる。
両手で兎の練り切りの入ったプラスチックの入れ物を持って恭しく頭を下げてから、「可愛くて食べるのがもったいない」と感想を述べると、そっと蓮さんの手が私の頭を撫でた。
大きな手に心地よさを感じていると、彼が「すまない」と呟き、気まずそうな顔でその手を引いた。
名残惜しさに胸が苦しくなったのは、蓮さんならもっと触れてくれていいのにと思ってしまったからかもしれない。
互いの間に流れた微妙な空気を払拭するように、つけたままのテレビから「次に紹介するのは」と明るい声が響いた。
「あぁ、ここだよ。さっき話した新店舗」
「そう言えばメディアが入ってたな」と今思い出したかのような呟きにつられて、私も練り切りを紙袋に戻してからテレビ画面へと顔を向ける。
新店舗にはカフェスペースもあるらしく、しかも場所は富谷旅館から電車で一駅。