若旦那様の溺愛は、焦れったくて、時々激しい~お見合いから始まる独占契約~
「あっ、富谷じゃん! 久しぶりだな」
明るくかけられた声音につられて視線を上げて、よりによってこのタイミングで会わなくてもと怯んでしまう。
「溝田先輩」
呼びかけた声は震えてしまっていて、溝田先輩は私の様子がおかしいと感じたらしく、不思議そうに瞬きを繰り返した。
「先輩も和菓子を買いに?」
「仕事で近くに来たから立ち寄ったんだ……あ、蓮もいるし、時間あるなら一緒に飯でもどう?」
溝田先輩に腕を掴まれ軽く引っ張られたが、私は反射的にその手を力いっぱい振り払った。
「嫌です!」
あまりにも強い私の声音に溝田先輩が唖然とする。
厚意で誘ってもらったのに八つ当たりするように拒否してしまい、気まずさが込み上げて来る。
私は「ごめんなさい」と頭を下げて、その場から走って逃げ出した。
「あぁもう、お茶請け買い損ねちゃった」
気づいたのは電車に乗ってしまった後で、旅館に戻る途中にあるスーパーで和菓子をいくつか見繕う。
溝田先輩は、レストランなどの事業展開をしているワタラセフードシステムという有名企業に勤めている。