若旦那様の溺愛は、焦れったくて、時々激しい~お見合いから始まる独占契約~
そしてその会社の社長は、社名から判断できる通り、渡瀬先輩のお父さん。
同じく父親を社長に持ってはいるが、会社の規模は大きく違う。
社長令嬢という言葉が似合うのも私ではなく、渡瀬先輩の方。
あのテーブルには溝田先輩の席もあったのだろう。
しかしだからといって渡瀬先輩の態度が変わるとも思えない。
まるでデート中の恋人のようなあの仲睦まじい様子が脳裏に焼き付いて離れない。
足取り重く旅館に向かって歩いていると、スマホが鳴った。
電話をかけてきたのは蓮さんで、ため息をひとつ付いてから、スマホを耳に押し当てた。
「富谷、今どこにいる?」
「旅館の近くです」
「店に来ていたって航に聞いた。それならそれでメッセージのひとつでも送ってくれれば良いのに」
航とは溝田先輩の名前だ。
先輩から私の様子がおかしかったとでも聞いて、気になって電話をかけてきてくれたのかもしれない。
普段なら、どんな些細なことでも気遣ってもらえたらとても嬉しいのに、今は無理だ。
さっき見た光景が頭から離れない。胸が苦しくて、私は黙り込む。