廃屋の捨てられ姫は、敵国のワケあり公爵家で予想外に愛されています
「暫くエスカーダ邸で仕事をすることにしました。ですから、朝、ゆっくり出来るのです」

「あら?それで仕事になるの?」

「ええ。諸国の動きも少し安定していますし、軍部との連絡もランスロットを伝言役に据えれば問題はないでしょう」

私の脳裏には、怨み節を言うランスロットの姿が浮かんだ。
彼は私たちがいなかった頃、ダリオンの家政婦のような扱いを受けていたらしい。
やっと解放されたと思ったら、今度は使いっ走りだなんてお気の毒。
だけど、私はダリオンがいてくれる方が嬉しいから、ランスにはあえて受難の道を歩んでもらおう。

「今日は午後からイエーレン先生が診察に来るのだったな?」

ダリオンの目が私に向いた。

「あ、はい。そう仰ってました」

「では、午前中は空いてるな」

「……空いてます、けど……」

「なら、私が勉強を教えよう」

ん?と、食堂にいた全員が首をかしげた。
今、ダリオン、なんて言った?
私に勉強を教えるって……ええっ!?

「ダ、ダリオン様が、べ、勉強を、私に?」

「何か問題が?」

「いいえ!問題なんてありません……が、お仕事は良いのでしょうか?」

「構わん。そうだ、いい機会だから、お前に私の考えた戦略をいくつか教えてやろう」

ダリオンは満足げに頷いているけど、周りはそうではなかった。
おばあ様は頭を抱え、エレナたちは「うわぁ、可哀想」と言い出しそうな表情である。
確かに、戦略なんて語られても普通の女子は興味がなくて困ってしまう。
でも、私は案外好きだったりする。
お芝居でも歴史物が好きで、その手のオーディションには積極的に行ったものだ。

「わぁ、ありがとうございます!とても楽しみです!」

すると、ダリオンは笑った。
『笑った』……のである。
口の端を上げただけ。
目を細めただけ。
ただそれだけだったけど、確かに、無表情で感情もないような大英雄は微笑んだのだ。
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