堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
「え。それって流行りの婚約破棄……」

「されても、私は困るのだが」

 ジルベルトは笑って、再び歩き出した。それ以上の言葉は無い。ジルベルトのカツンカツンという規則的な足音だけが響く。

 廃倉庫から出るとリガウン家の馬車が止まっていた。この御者も影の協力者の一人だ。
 ジルベルトは馬車に乗り込むと、エレオノーラを背中から降ろして、その隣に座った。馬車は静かに動き出した。

 エレオノーラは背筋をまっすぐに伸ばして、両膝の上に両手をグーにして座る。その顔は口を真一文字に結び、目はどこか悲しそうに揺れながら、その両手をただ一点に見つめていた。

「エレン。顔を見せて欲しい」
 ゆっくりとエレオノーラは顔を上げ、首の向きをかえた。

「出会いはどうであれ、私は今、あなたを愛している。だから、婚約破棄はしない」

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