溺愛結婚は突然に〜ホテル王から注がれる、溢れるほどの愛〜
目が覚めた時、どれくらい寝たのか頭はとてもスッキリしていた。
「ん……」
無意識に目を擦ると手に何かがついた感覚がして、そういえばメイクしたまま寝てしまったと気が付いて身体を起こす。
案の定手には少しアイシャドウが付いてしまっていた。
やっちまった。
そう思いながら辺りを見回すと、一緒に寝ると言っていたはずの優吾さんの姿はどこにもない。
私が寝ていたのはどうやらスイートの中の寝室らしく、キングサイズのベッドがあるだけだ。
寝心地の良すぎるベッドに後ろ髪引かれる思いを抱きながらもさすがにずっとここにいるわけにもいかず、恐る恐る部屋を出た。
今が何時かわからないものの、電気を付けなくても暗いとは思わない明るさ。おそらく昼過ぎくらいだろう。
寝室を出てリビングに戻ると、先ほど座っていたソファからは少し離れたところにあるデスクでノートパソコンを開いてキーボードを叩きながら誰かと電話している優吾さんの姿があった。
私が起きてきたことにはどうやら気が付いていないらしい。
仕事の話だろうか、流暢な英語を部屋に響き渡らせつつも忙しなく手を動かしている。
会話の内容からして新しいホテルの打ち合わせだろう。あまり私は聞かないほうが良さそうだ。
ベッドまで借りて仕事の邪魔までするのも申し訳ないため、私はソファに腰掛けてテーブルに置いてあった鞄からスマートフォンを取り出す。
時間を確認すると、どうやら寝ていたのは二時間ほどだったらしい。思っていたよりも早く起きたものの、それなりに熟睡できたようだ。
人様の部屋で寝てしまった罪悪感はあれど、あれは優吾さんがあんな激しいキスをするからいけないんだ。
そう自分に言い聞かせつつ、仕事に集中している優吾さんを後ろから見つめた。
時間にすれば、十五分ほどだった。
英語が聞こえなくなり、電話を切った頃。
視線を感じたのだろうか、ふと後ろを振り返った優吾さん。私を視界に入れると驚いたようで立ち上がってこちらに歩いてきた。