溺愛結婚は突然に〜ホテル王から注がれる、溢れるほどの愛〜



……日本人?


メイクの感じから、都内のパーティーで見かける女性たちを思い浮かべた。


日本人の若い女性が一人でカジノにいるなんて。どこかにパートナーがいるのかと少し遠くから傍観してみるものの、トイレから誰かが戻って来る気配は無いし、彼女も気にせずゲームを楽しんでいるよう。


どうやら一人らしい。そう確信した。


もう一度彼女に視線を向けると、そのチップを見つめる少し伏せた目がとても印象的で、長い睫毛が儚さすら感じさせる。


その横顔に思わず見惚れてしまう。そんな自分に驚きを感じながらも、気が付けば彼女が座るテーブルに向かって歩みを進めていた。


彼女は突然俺が現れたことに大層驚いたようだが、俺は高鳴る鼓動に抗うように平常心を演じていた。


もうゲームを辞めると言った彼女を強引にハイリミットルームに誘ったのは、このまま別れるのが嫌だったから。それに尽きる。


実際に誰かを探していたであろう黒服がいたのは事実。誘うことに成功した俺は、どうにか彼女と繋がりを持とうとアルコールの力も借りて話を聞き出した。


婚約者候補から逃げ出してきた。そう聞いた時には、これはチャンスだと思った。加賀美の令嬢だと知った時には、もう運命なんじゃないかと思った。


紅葉という名前を知り、会話をしていく中で変に強がるところや男慣れしておらず反応がいちいちウブなところがとても可愛らしいと感じた。


普段海外のセレブ女性ばかりを見ているためか、日本人の華奢で海外の女性に比べると背が近くて幼い顔立ちがとても懐かしく、魅力的に映った。


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