夜が明けぬなら、いっそ。
簡単に男はガクッと転けて止まる。
とりあえず落ちた反物を拾って、その男の前に立った。
「こんなところで盗人か?私を誰だと思っている」
「な、なんや…!!」
「……江戸で有名な万屋の出雲 小雪だ」
“十を殺す鬼の十鬼─トキ─”。
そんな自己紹介ではなく、しっくりくる方を選んだ。
けれどここは江戸ではなく京。
男は首を傾けて、怯えることなく笑い出す。
「ぎゃははっ!!やるならやるでええんやで!?」
「…望むところだ」
女として生きるとは決めたが、ここは万屋の一員として放っておけるわけがない。
だからこれは無効として扱わせてもらおう。
チャキ───と、柄に手をかける動作をしてから頭の回転は休止した。
「………そうだ、なかった」
刀はとっくに手放していた。
江戸から出る前、城に置いてきた。
だからあの刀はいずれあいつが見つけて使ってくれるのではないかと。
「随分と生意気な女や。ちょいと躾が必要やなぁ?」
「……ここは見逃してやる」
「なんでお前がそない上から目線なんや」