オトメは温和に愛されたい
「仮なのが悔しいけど……ちゃんと付けてるな」

 いい子、と付け加えて手の甲にキスを落としてから、「あー、マジでやばいな、これ」ってつぶやいて。

「――?」

 何が?って聞こうと思ったらギュッと抱きしめられて、耳元で「音芽(おとめ)、大好きだよ」ってささやかれた。

 嘘……。今、温和(はるまさ)「大好き」って言って……くれた?

 温和(はるまさ)が情事のとき以外にそんなことを言ってくれるなんて、奇跡に近い。

 私はもじもじと身じろいで、そんな温和(はるまさ)の顔を見ようとしたんだけど、腕、緩めてくれないの。

温和(はるまさ)、お願い。顔見て言って欲しい……」

 っておねだりしたら、「バカ音芽。そんな恥ずかしいこと出来るか」って余計に腕の力を強められた。

温和(はるまさ)、痛、い……」

 抗議したらすぐに緩めてくれたけれど、「行くぞ」ってくるりと(きびす)を返しちゃうの。

 でも私、見えてるよ?
 温和(はるまさ)が耳まで真っ赤にしているの。

 家の鍵を閉めて、小走りで温和(はるまさ)に追いついて、彼の腕にギュッと抱きついてから、私も彼の顔を見ないで何気ない風を装って言うの。

「私も温和(はるまさ)が大好きです」
 って。

 その声に、温和(はるまさ)がピクッと反応したのが分かったけれど、照れもあるんだろうな。
 表立った反応はなしだった。

 温和(はるまさ)の照れ屋さん。そういうところも全部全部引っくるめて、私は貴方に夢中です!
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