逆プロポーズした恋の顛末


もう一度キスしようと顔を寄せてきた尽から顔を背けて、その胸を押し返した。


「物足りないんじゃないのかよ?」

「キスより先に、話し合うべきことが山ほどあるでしょ」

「ないだろ。律と幸生が俺の住んでいる部屋に引っ越してくればいい。2LDKだから、三人で暮らすのに不自由はない」

「ちょっと待って! 引っ越すって、そんな簡単にはいかないわ。診療所だって急には辞められないし、幸生も保育園のお友だちと急にお別れするなんて、無理よ!」


現実的に考えて、わたしと幸生が引っ越すのが最善だとは思う。
けれど、じゃあ明日にでも、というわけにはいかない。
 

「律の代わりなら、ジイさんがもう見繕っているだろ。幸生にとって、保育園が変わるのは確かにストレスになる。でも、新しい環境、新しい出会いはいい刺激にもなるんだ。保育園以外での出会いだってあるし、英語の勉強ができる幼児教室に通わせることも可能だ。メリットは大きいはずだ」

「でも、所長や山岡さんのような、相談できる人がいないし……」

「これからは、律の相談に真っ先に乗るのは俺の役目だ。律と幸生を守るのも。周りにとやかく言わせるつもりはない。それとも、まだ……俺は、頼りないか?」


三人で一緒に暮らしたこの一週間。尽は「いいパパ」であり、「いい夫」だった。
家事も幸生の世話も、きちんと分担してくれていた。

もちろん、これが尽の日常だとは思っていない。
あちらへ戻れば、一緒にいられる時間は激減するだろう。
傍にいてほしい時に、必ずいてくれるとは限らない。

それでも、幸生のことで相談するなら、と考えた時、真っ先に浮かぶのは所長ではなく、尽の顔だった。


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