逆プロポーズした恋の顛末
とっさに伸ばした手が、かろうじてリュックサックを掴み、安堵のあまり思わず人目もはばからずに叱りつける。
「手を離しちゃダメって、言ったでしょっ!」
「……ご、ごめんなさい」
幸生は顔を強張らせ、素直に謝った。
でもここで、簡単に「いいのよ」なんて言えば、また同じことを繰り返さないとも限らない。
心拍数が上がり切った心臓が口から飛び出そうだが、深呼吸し、幸生の肩を掴んで目を合わせ、なるべく落ち着いた声音でゆっくり言い聞かせる。
「幸生。車や人がいっぱいいるところで急に飛び出したら、ぶつかって、怪我をしてしまうかもしれないでしょ? せっかくパパに会いに来たのに、幸生が怪我をして遊べなくなったら、パパはとっても悲しくなっちゃう。それに、幸生とぶつかった人も怪我をするかもしれない。そうしたら、その人のパパやママ、お友だちも悲しくなっちゃう。だから、必ずママかパパと手を繋いで、ゆっくり歩いてくれる?」
「……うん」
しゅんとした幸生が大きく頷くのを確かめて、明るい声で促す。
「じゃあ、パパのところへ行こっか!」
もう一度、幸生としっかり手を繋ぎ、尽の車を目指して再び歩き出す。
尽は、わたしたちに気がつくと、素早く車から降り立った。
「律! 幸生!」
「尽、迎えに来てくれてありがとう」
「当直明けだったから、ついでだ。幸生、初めて乗った新幹線はどうだった?」
「……楽しかった」
いつもなら大はしゃぎで報告するはずの幸生は、しょんぼりした様子で呟く。
尽は怪訝な顔でわたしをちらりと見たが、荷物を後部座席に積み込み、チャイルドシートに幸生を座らせると再び運転席へ戻り、車を発進させた。
わたしに叱られて、しょげていたところに、尽の顔を見てホッとしたのだろう。
幸生は、車が走り出すなリ、ぐずぐずと泣き出した。