逆プロポーズした恋の顛末
尽は、バックミラー越しにその様子を見て、小声でわたしに訊ねる。
「幸生は、どうして泣いてるんだ?」
「さっき、車道に飛び出しかけて、わたしに叱られたの。それがショックだったのと、尽の顔を見てホッとしたのとで、涙が出ちゃったんでしょ」
わたしが端的に説明すると、尽は「なるほど」と頷き、泣きやむ気配のない幸生に問う。
「幸生、ママに叱られたんだって? どうして?」
「わ、わるいことっ…し、したからっ」
「悪いことって、何をしたんだ?」
「て、つながないではしった……」
「どうして手を繋がないで走ったらダメなんだ?」
「ひ、ひととか、く、るまがいっぱいいるとこは、ぶつかって、あぶないからダメ……」
「うん、そうだな。とても危ないからな。もうしないって、約束できるか?」
「できる……」
「幸生が約束を守れば、ママは怒らない」
「……うん」
「じゃあ、もう泣かなくてもいいだろ? それとも……ママが怖くて泣いてるのか?」
「ううん……こわくない」
「ママがキライになったか?」
「ううん……すき」
幸生の告白を引き出した尽は、わたしにニヤリと笑ってみせた。
感謝しろと言わんばかりの顔が憎たらしいが、わたしと幸生のクッション役になってくれたのは、ありがたい。