逆プロポーズした恋の顛末
ニヤニヤ笑いながら看護師が出て行くと、尽は大きな溜息を吐いてわたしの目の前にしゃがみこんだ。
大きな手で、わたしの手を包み込むようにぎゅっと握りしめ、掠れた声で呟く。
「二人とも、とりあえず大きな怪我がなくてよかった」
俯き、握りしめた手に額を押し当てる尽を見下ろし、心配させてしまったことを申し訳なく思う。
ソファーで眠る幸生にも、ずいぶん怖い思いをさせてしまったことだろう。
「ちょっと車にぶつかって、転んだ程度なんだけれど、大げさなことになっちゃって、ごめん。しかも、よりにもよって病院の目の前で……」
「んで、謝るんだよ。律は一つも悪くないだろうが」
顔を上げた尽は、むっとした表情をしている。
「でも、尽の職場には、まだ何も話していなかったんでしょ? 正式に結婚もしていないのに子どもがいるとか、相手がわたしだとかわかると、いろいろと気まずいというか、やりにくいというか、そういうこともあるんじゃないかと思って……」
先ほどの看護師の反応を見れば、他の人たちの反応も想像がつく。
わたしたちが結婚していないことは、わたしの名字ですぐにわかることだ。
それを好意的に捉える人もいれば、そうではない人もいるだろう。
いずれにせよ、尽に肩身の狭い思い、居心地の悪い思いをさせることになってしまうのが、申し訳なかった。
「確かに、まだ病院関係者には律と幸生のことを話していなかったが、隠すつもりはない。隠すようなことでもないだろ」
「でも、ご両親が……」
「あとで様子を見に来ると言っていた」
「えっ!?」
「この状況で、来ない方がどうかしてるだろ」
「そうかもしれないけれど……」
病院のベッドの上でご挨拶……なんて、あまり喜べない状況だ。
「かしこまった席で、アレコレ質問されるよりはいいんじゃないか? あっちも長居はしないだろうし」
「そうだけど……」
「それと、午来が幸生の世話ができて、律に何かあった時も対処できる家政婦に心当たりがあると言うんで、いま、確かめてくれている」
「家政婦だなんて、大げさな……」