逆プロポーズした恋の顛末
現れたのは、わたしを診てくれた医師――村雲部長だ。
「……襲ってませんよ、まだ」
「寸止めか。そりゃ、悪かった……と言うとでも? イチャついてないで、奥さんをさっさとベッドへ移してやれ」
尽は憮然とした表情で立ち上がり、わたしを車いすから抱き上げて、ベッドへ運ぶ。
村雲医師は、わたしがベッドに収まると、手にしていたタブレット端末を見せながら、検査結果を説明してくれた。
「……で、結論から言うと、いまのところ問題なし。打撲は、痛みを薬で抑えても、自然と治るのを待つしかない。脳震盪については、症状はなくともしばらくは要経過観察。息子さんの方は、脳震盪の症状はなく、怪我も擦り傷のみ。ただし、精神的にショックを受けているのはまちがいないから、情緒不安定になる可能性は高い。時間が経過しても落ち着く様子が見られない場合、カウンセリングを検討した方がいいかもしれないというのが小児科医の見解。その辺の判断は、父親である立見先生ができるでしょう」
「ということは、普通に生活しても問題ないんですよね?」
「そうですね。ただ、いまは何ともなくとも、打撲は時間が経ってから痛みが強くなるし、腫れがひくにも一週間から二週間はかかる。痣が消えるには、もっとかかる。現状、脳に異常はみられなくても、あとから症状が出る場合があるので、いずれにせよ無理はしない方が賢明ですね。堪え性のない夫に、押し倒されても拒否した方がいい」
「村雲部長。セクハラですよ」
あまりにもさらりと言われ、一瞬聞き流しかけたが、尽のひと言でカッと頬が熱くなった。
「医師としての、れっきとしたアドバイスだ」
「アドバイスじゃなく、からかいたいだけでしょう?」
「わかってるなら、大人しくからかわれておけ。部長の重責に苦しむ俺の気晴らしになれるんだ。光栄だろ?」
苦虫を噛みつぶしたような顔で、尽は渋々認めた。
「……ええ、光栄です。とても」
二人の遠慮のない遣り取りに、師匠と弟子、という言葉が浮かぶ。
(尽と村雲先生……所長、三人って似てるかも?)
そんなことを思っていたら、あっけなくその理由が判明した。
「それで、誰から俺と律、幸生のことを聞いたんですか?」
「ん? そりゃ、大鳥先生に決まってるだろ。いくら師匠の頼みでも、おまえを二週間、診療所に研修名目で派遣してほしいと言われて、理由も聞かずに差し出すわけないだろうが」