逆プロポーズした恋の顛末
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外観は古めかしい洋館だが、内部は夕雨子さんが生活しやすいように、バリアフリー、車いす対応に改装済み。そのおかげで、わたしも尽の押す車いすのまま、お邪魔させてもらうことができる。
家具や内装は、数日までに訪れた時と何一つ変わっていないのに、主がいなくなった家は、どこか寂しく、空虚な雰囲気を漂わせていた。
リビングの薔薇の咲き乱れる庭を眺めるソファーに腰を下ろした途端、幸生は、わたしから受け取った紙袋を所長に手渡す。
「お肉のサンドイッチが、一番美味しかったよ?」
「中身は、ローストビーフ、アボカドシュリンプ、ベーコンエッグです」
「お、美味そうだなぁ」
食べやすいように一切れずつラップで包んであるサンドイッチは、彩り豊か、野菜も入って栄養満点だ。
わたしたちも、ここへ来る前に食べたので、味は保証済み。
最初こそ、びっくりし、戸惑っていた幸生も、所長がサンドイッチを食べ始めるのを見て安心したようだ。いつものように、他愛のないおしゃべり――イルカの話を始める。
所長も、いつものように笑いながら、頷いたり質問し返したりしていたが、サンドイッチを食べ終え、コーヒーを飲み始めたところで、幸生が「見て!」とリュックサックから一枚の画用紙を取り出した。
「これ、ゆーこちゃんへおてがみ!」
幸生がそんなものを用意していたことにまったく気づいていなかったので、驚いた。
画用紙には、幸生が描いた「らしきもの」と所長が描いたもの、エンゼルフィッシュが二匹いる。
白い紙面の右側は、エンゼルフィッシュ(らしきもの)以外、何も描かれていない。
が、左側――所長が描いたエンゼルフィッシュのまわりには、判読不能な大小不揃いの記号が六つ、散らばっていた。
さらによく見れば、小さすぎて点にしか見えないものも、エンゼルフィッシュの口元にこちゃこちゃとひしめきあっている。
何が書いてあるのかさっぱりわからない。
首を捻る大人三人に向かって、幸生は「どうだ!」と言わんばかりに、胸を張って報告した。
「おじいちゃん先生の『ごめんなさい』、ぼくが書いたよ!」