逆プロポーズした恋の顛末

炊き上がったごはんを少し冷まし、ツナマヨと昆布の佃煮、たらこを具に、おにぎりを握る。
幸生の分は小さめに、尽の分は大きめに、わたしの分はその中間のサイズにして、ひとり二個ずつ。

そのうち、お弁当を持ってピクニックに行くのもいいかもしれない、などと考えている間に、顔を洗って着替えた二人が戻ってきた。

幸生は、椅子に座って「いただきます!」と叫ぶなり、さっそくおにぎりにかぶりつく。
手と口のまわりに米粒をまぶしながら、夢中になって食べ進めていたが、隣に座って同じようにおにぎりにかぶりついている尽を見て、呟いた。


「パパのおにぎり、ぼくのよりおっきい……」

「パパは、ママや幸生より身体が大きいから、たくさん食べなくちゃいけないのよ」

「ぼくも、大きくなったら、おっきなおにぎり食べられる?」

「そうね」

「どれくらい大きくなったら?」

「うーん……いまのパパくらいまで育つには……」


わたしが答えに詰まると、尽本人が答えた。


「あと十年くらいしたら、食べられるようになる」

「十年?」

「保育園のあと、小学校を卒業する頃にはママよりも大きくなってるはずだ」

「えっ! 尽、そんな頃から大きかったの?」

「ああ。よく、中学生ではなく高校生にまちがえられて、ジョシコーセーにナンパされてたな。だから、同級生や年下には興味がない」

「何が言いたいのよ?」

「ん? 律みたいな年上が好みだってことだ」

「あ、そう」


ニヤリと笑う憎たらしい顔を睨み、ダイニングテーブルの下で、思い切りその足を踏んでやった。

尽は、眉を引き上げ、わたしに何か言おうとしたが、幸生に「おにぎりは、えいごで何ていうの?」と質問され、そこからいつもの質問攻めにあう。

海苔、昆布、ワカメ、お豆腐……和食だと、英語でもそのままで通じるのだと知って、幸生はびっくりしている。

そんな見慣れた朝の光景も、今日ばかりは微笑ましいと見守っている余裕がない。

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