逆プロポーズした恋の顛末

「俺と尽は、高校の同期なんですよ」

「え……?」

「だから、アイツのことはよく知っているんです。女性関係では、むこうが勝手に追いかけて来るから、自分から動くなんてあり得ない。どんな美女でも一夜限り。たまに気まぐれを起こすことがあっても、二、三回会えばおしまいだ。特定の相手を作ったことなんて、一度もない。でも、あなたはちがう」

「…………」

「ほんの数時間しか一緒に過ごせなくとも、あなたには会いに行く」


じっとわたしを見上げる弁護士の表情から、嘘だとは思わなかった。


「もしも、あなたと尽が出会うのが、あと五年遅かったなら。アイツが、一人前の医者として認められていたなら、事情はちがっていたかもしれない」


五年後、尽は研修を終えて一人前の医師になっているはずだ。

けれど、いくら月日が過ぎようとも、わたしと尽の間にあるギャップは埋まらない。
時間が解決してくれる場合もあるけれど、そうではない場合もある。

年齢、家庭環境、学歴、職歴、これまで見てきた世界――。

恋に溺れ、お互いしか見えていない間なら、目をつぶってやり過ごせることも、何年、何十年もの未来を共に歩むには、そんなわけにはいかない。

同僚のホステスが、本気で好きになった客との将来を泣く泣く諦めるのを何度見たことか。
格差を乗り越えて結ばれた数年後、ボロボロになって店に戻ってきた元同僚を何人出迎えたことか。

困難や障害を乗り越えた先にあるのは、幸せな未来だけではないと知っている。


「わたしは……そうは、思わない」

「あなたはそうでも、尽はちがう。いまの自分には、愛する女を幸せにする力がないと知れば、男としてのプライドはズタズタになる」

「……愛する女じゃ、ないわ」

「アイツは、愛してもいない女のために、コンビニでブリトーを買い占めたりしない」

「ふ、はっ……」


笑った拍子に、目の縁でかろうじて止まっていたものが、落ちた。


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