逆プロポーズした恋の顛末


「んで、律が謝るんだよ。謝るのは、俺だろ。(はら)ませておきながら知らん顔をしているなんて……クズじゃねぇか」


そう言う尽の声は、彼らしくもなく小さく頼りなさげで、これ以上ないほど苦いものが滲んでいた。


「知っていて、知らんぷりしたわけじゃないでしょ? わたしが……尽に言わなかったから。尽には知る権利があったのに、わたしひとりで全部決めて、何の相談もしなかった」

「相談しなかったんじゃない。できなかったんだろ? 俺が頼りないから。半人前にもなっていない研修医で、ロクな稼ぎもなくて、余裕がなくて……律の支えになるどころか、足手まといになる。そんな男を頼りにできるわけねーよな。だから、嘘まで吐いて別れるって言ったんだろ」


自分に子どもがいて、しかも三歳になるまでまったく知らずにいたことにショックを受けているのは、理解できた。
動揺のあまり、普段とはかけ離れた言動をしてしまうことも、理解できた。

でも、あまりにも自虐が過ぎる。
尽が自分を貶すということは、幸生の父親を貶すのと同じことだ。


(そんなこと……許せるわけないじゃない)


妊娠しているとわかったとき、不安より、喜びが勝った。

心から好きになった人の子どもを産める。
尽と別れても、尽の片割れと生きていけるのだ。
そう考えたら、どんなことだってできると思った。


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