キミは掴めない。
……でも、と、わたしは思う。
階段を駆け上がって、さらに廊下の奥へ進んだ。
それから、もう誰も近づかないとされている旧音楽室の扉を、躊躇なく開ける。
「あれ、どうかした?」
「………」
───いるんだよなぁ、普通に。
読んでいたであろう本をパタンと閉じてわたしに視線を向けたのは、まさにその噂の"野良猫"さん。
「どうしたもこうしたも……。清瀬くん、『クラス委員は昼休みに職員室』って今朝のアキちゃんの言葉忘れたの?」
スマホの時計画面をグイッと清瀬くんの目の前に掲げる。
昼休みが始まってから、かれこれ20分が過ぎようとしていた。
全体の昼休みの時間は50分。もう少しで半分経ってしまう。
「あぁ、そういえばそんなこと言ってたな」
今思い出したかのような素振りを見せる清瀬くんだけど、忘れてたなんて絶対ウソ。