政略婚~腹黒御曹司は孤独な婚約者を守りたい~
言いたいことは色々あったけれど、私が言えるのはこれが精いっぱいだった。

「社長室に戻ろうか」

正式に井垣(いがき)の社長になった壱都(いちと)さんはすぐに仕事に戻った。
戻ったというより、部屋に入ったというほうが正しいのかもしれない。
ずっと仕事だけはしていたのだから。
疲れた顔は一切見せずに重役達はもちろん、社内の人間には徹底して王子のような顔をして、あっという間に井垣グループを正常に戻した。
私は簡単な仕事を手伝うだけで、他に何ができるわけでもなく、お茶をいれたり、書類を整頓したり、樫村(かしむら)さんが不在の時には電話をとったりと、それくらいだった。

「温泉とはなんだったのだろう……」

遠い目でビルの外を眺めた。
私、温泉に行ったのかな?
行ってたよね?
どんどん仕事をこなす壱都さんを見ていると、夢のような気がしてきた。
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