政略婚~腹黒御曹司は孤独な婚約者を守りたい~
す、と目を細めた。
綺麗なせいか、威圧感が半端ない。
思わず、後ろに下がると逃がさないというように腕を掴まれてしまった。
壱都さんは私の体を軽々と抱き寄せる。

「な、なにするんですか!」

笑った息が耳にかかってくすぐったい。

「それじゃあ、また。婚約者殿」

耳元でそう囁いたかと思うと、唇が一瞬だけ触れた。

「……っ!」

「浮気はしないようにね。マフィン、おいしかったよ。ごちそうさま」

そう言って、壱都さんは笑いながら車に乗った。
手を離され、もう自由なはずなのに石みたいに固まったまま、その場から動けなかった。
そんな私をあわれむように運転席に座った男の人がすみません、とこちらに軽く頭を下げるけど、壱都さんのほうは平然としたまま。
車が動きだし、見えなくなるまで私はその姿を見送った。

「今のは何?」

婚約者、結婚って?
誰が誰と?
触れた唇の感触がまだ残っていた。
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