政略婚~腹黒御曹司は孤独な婚約者を守りたい~
一人と言われ、胸が痛んだ。
そうだ。
私を心配してくれる人はもういない。
うつむいた先に雪のひとひらが地面に落ちて消えた。

「それはそうですけど……」

声が震えた。

「いいよ、泣いて」

久しぶりに会ったというのに壱都さんはその離れていた年数をまったく感じさせず、体を抱き寄せると背中を撫でてくれた。
壱都さんはこのタイミングでちょうど現れたわけじゃない。
触れたスーツは冷たかった。
壱都さんは私を心配してくれていたのだとわかった。
私にはもう誰もいないはずだったのに。

「大丈夫。君を一人にしないために帰ってきたんだよ」

優しい声が降り注ぐ。
そのせいで、今まで我慢していた涙があふれてきて泣いてしまった。
そして、こんな時なのに初めて会ったあの日、壱都さんが忘れていったハンカチをまだ捨てずに持っていることを思い出していた―――


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


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