ご先祖さまの証文のせいで、ホテル王と結婚させられ、ドバイに行きました
 そんな桔平に真珠は言った。

『困ったことがあったら呼んでください。

 いつでも何処でも、あなたが呼ぶのなら。

 砂漠でも、宇宙でも。

 きっと駆けつけるから――』

 それはそれで熱烈な愛の告白のようにも聞こえるな、と真珠は今になって思っていた。

 真珠は、桔平に、いつ、何処に呼ばれても駆けつけられるように、パスポートが切れないようにしていたのだ。

「お前には日本の家の鍵を渡していたはずだが、一度も来ていないようだな」

 好きに使ってよかったのに、と言われるが。

 いつでも来ていいと言われたから、いつでも行かなかったんですよ……と真珠は思う。

 そのとき、
「花木!」
と声がした。

 振り向くと、大学の先輩で前の職場でも一緒だった中峰がスーツケースを手に立っていた。

 大学でも会社でもいつも頼りになるやさしい先輩だったし。

 細身で爽やかなイケメンなので、女子に人気もあった。

 ちょっと気弱なイメージではあったが。
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