僕惚れ①『つべこべ言わずに僕に惚れろよ』
 働き始めたと同時に名目上【館長】という肩書がついてしまった僕は、本来の司書の業務とは違った部分も気にしながら仕事をすることを余儀なくされた。バイトの子たちのシフト調整もそんな雑事のなかのひとつだ。

 常に人手不足なので、僕や内田さんはカウンターにいるよりも、七階フロアの片隅にある事務室にこもって本の受け入れ作業や廃棄作業をしていたり、書庫に入って動き回っていることのほうが多い。
 僕の、葵咲(きさき)ちゃんが来館したらカウンターからすぐに分かるだろう、という当初の目論見(もくろみ)は見事に打ち砕かれたことになる。

 基本的に割と単調なカウンターでの貸出し・返却業務の大半は学生バイトが担当してくれている。

 それで内田さんが館長をしていたときに、カウンター下に小さな押しボタンを設置したそうだ。どうしても館長でないと対応が出来ない案件の場合は、それを押してもらえれば館内どこにいても司書に呼び出しがかかるようになっている。

 呼び出し、と言ってもここは図書館。何か音が鳴ったりするわけではなく、各フロアの天井と事務室天井に取りつけられた淡いオレンジの回転ライトが五秒程度点灯するだけという極めてシンプルなシステムだ。

 それでも十分なのは、この図書館が受付と閲覧ロビーのある最上階にしか窓がないことが大きいだろう。

 書庫になっている六階から一階までは資料の日焼けを予防するため窓などが一切なく、天井の照明のみが唯一の灯りだからだ。

 停電になれば真っ暗になることは必至(ひっし)

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