僕惚れ①『つべこべ言わずに僕に惚れろよ』

「……理人(りひと)?」

 と、それに気づいた葵咲(きさき)ちゃんが、心配そうに声をかけてくる。

「退院してからすぐにお仕事始めちゃったみたいだけど……ちゃんと休めてるの? 睡眠時間、足りてないんじゃない? ……って、まさか、熱とかないよね?」

 言いながら、ほんの少し身を乗り出して、子どもの頃にしていた感じで何の躊躇(ためら)いもなく僕の額に手を伸ばしてくる。

 眼鏡をはずした途端、彼女の態度が急変して、ともするととても積極的にさえなったことに、僕は軽く驚かされた。

(そこまでかっ!)
 眼鏡の結界の力、いくら何でも半端なさ過ぎるだろ。そんなに気になるって葵咲ちゃん、どんだけ意識してるんだよ……。

 裸眼なので、視力こそ確保できなくてぼんやりしか見えないけれど、葵咲ちゃんの顔が間近に迫るのを感じて、何となく嬉しくなる。

 今日図書館前まで迎えに行ってから、ずっと彼女がよそよそしかった事を(かんが)みるに、これはこれでありだな、とか思ってしまう。
< 88 / 132 >

この作品をシェア

pagetop