【SR】卵
制服を着替えダイニングに戻った。
いつのまにか帰宅していた父も、すでに椅子に座って、ビールを飲み始めていた。
昨日はいなかった兄も、自分の席に座っている。
「望も、早く座りなさい」
怒りっぽい母の口調も、今日は何故だか優しく聞こえた。
「母さんも大したことなくて、良かったよ。望、大変だったろ。すまんな」
「ううん」
鍋から立ち昇る湯気で、部屋はいつもより暖かい。
それよりも、家族揃って囲む食卓が、こんなにも温かいなんて……
やっぱり、あんな卵のおまじないなんて、ただの偶然だったんだ。
昔に戻ったような家族団欒だった。
そう、信じたかった―――
父と母の視線が、決して交わらないとしても…
そんな二人を、兄が冷ややかに見ていたとしても……