Let's鬼退治!

第4話

「雉沼さんたちもまだ帰ってきてないし」

「は? なんか言った?」

 ヒットが出た! 

ランナーは走り出す。

三遊間へ飛んだボールは、すぐに捕らえられ一塁に投げられる。

駆け抜ける走者の足は、一瞬先に塁を踏んでいた。

大歓声が上がる。

「よっしゃぁ!」」

「このまま行くよ!」

 盛り上がるクラスの横で、細木はまだふてくされている。

「花田、保健室見に行ってこいよ」

「いま授業中ですけど」

「やっぱサボってんじゃねーかアイツら」

「気になるなら先生が見に行けばいいでしょ」

「やだよ。なんで俺が行かなくちゃいけないんだ。花田が行って来いよ。絶対おかしいだろ」

 次の打者がバッターボックス立つ。

緊張のにらみ合い。

バットを構えた。

放たれた剛速球に「ストライク!」の声が響く。

「は? 保健室で吐き散らかした子でもいたんじゃないの?」

「片付けの手伝いをしてるって?」

 バッターは次の打球を見送った。

判定はファウル。

ピッチャーとバッターの視線はフィールドでバチバチに絡み合う。

「もう出番ないんだろ? 見に行って来いよ」

 振りかぶったピッチャーから放たれる白球。

バットは動いた。

だけどそれはイヤな音をあげる。

「あぁっ!」

 高く上がった打球は、相手にとって格好の獲物だ。

難なくフライに打ち取られる。これで1アウト。

「ドンマイ!」

「次だ、次!」

 細木はまだブツクサ何かを言っている。

あたしは本当にそれどころじゃないってのに!

「あのさぁ、吐き散らかしたゲロの始末のあとに、生理の血で汚れたベッドのシーツ洗うのも手伝ってるかもしんないでしょ?」

 そう言ったら、ようやく細木は黙った。

「そんなに気になるんなら、本当に自分で見に行きなよ」

「……。もういい」

 立ち上がり、少し離れた場所に座った。

まだ顔が怒っているけど、そんなの知るもんか。

次のバッターは三振に終わる。

最後のバッターが打席に立った。

緊張のにらみ合いからの、あっという間に2ストライク。

次が最後の一球となってしまった。

あたしたちは全員で両手を組み天に祈る。

みんなの応援が最高潮に高まった。

「ストライク! バッター、アウト!」

 結局、1点ももぎ取れることはなく、終わってしまった。

「ゴメンなさぁ~い!」

 あたしたちはみんなで、半泣きのバッターをねぎらう。

「いいよ、いいよ!」

「次は頑張ろう」

 慌ただしくチームの交代が行われているなか、細木は0の並んだスコアボードの前に立っていた。

ふいにチョークを手に取ると、2回の裏に「1」の文字を書き足し、最終得点にも「1」を付け加える。

「あの、交代なんで、消しちゃっていいですか?」

「あ、はい」

 速攻で消されてるの、マジでウケる。

校外のどっかへ行っていたらしい小田っちが、スーツ姿で現れた。

「あぁ、細木先生。すいませんね。無事にやれてますかね」

「あ、はい。大丈夫です!」

 細木はパッと立ち上がって、にっこにこの満点笑顔でペコリと頭を下げる。

「花田、大丈夫か?」

「せんせーい。大丈夫だよー」

 そう言って手を振ると、小田っちも満足そうに笑顔で手を振り返してくれた。

次の試合が始まる。

機嫌を直したらしい細木は、そこからずっとにこにこしながら大人しく試合を見守っていた。

「平和だなぁ~」

 あたしはそうつぶやくと、青い空の下主審についた。
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