蒼い炎

「テオファニス様、“食事”の支度を致します」
「いや、いらない」
「しかし…」
 従者が渋るのも無理はない。男の目は明らかに少女を見て疼いた。それは、彼らの飢えの証。彼らの糧が足りていない証拠なのだから。
 だが、男はそれを拒む。
 平静を装っていた男だが、内心動揺していた。腕の中で意識を飛ばしている少女が、別の顔に重なって見える。似ている。あまりにも、似ているのだ。
 瞳が疼いたのはそのせい。もう、何十年も前に失った面影を思い出したせいだ。
 息をつき、目を閉じる。
 目の前に見える幻想から逃れるため。
 やがて、馬車は止まる。直後、外に出て扉を開ける従者に続いて、馬車を降りた男の目の前に広がるのは漆黒の館。西洋の洋館を思わせる古いたたずまい。
 彼らが治める地の端。人間界に比較的近い、暗い森に囲まれた場所。

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