実らない恋だとしても… あなたへの想いが溢れそうです
離れてみてわかること


 宇治の夏は暑い。勿論、京都市の東南だから同じ内陸性の気候だ。
蒸し暑い上に熱帯夜が続くが、期間は短く残暑の後にはすぐ秋めいてくる。

さわらびの道から少し奥まった場所に、新たな真穂の仕事場『橘家』はあった。

平等院を始めとする人気の神社仏閣が多い地区だが、
少し山際なので、観光客の喧騒もここまでは届かない様だ。


橘家は元は高貴な血を引くと言われている。
だが、江戸時代後期には裕福な豪商の一族であったらしい。
この宇治の屋敷は、その頃に別邸として建てられていた。

橘の当主は代々に渡って美術工芸品などを多く蒐集してきた。

だが、維持管理に費用が掛かるこの屋敷を受け継ぎたいと思う相続人はなく、
もう寄贈するか倒すしか無いと思われた時に、一族の一人が名乗り出た。

その人物が、蔵の整理を依頼してきた橘恭介(たちばなきょうすけ)だ。

彼は若いが名の通った建築家で、長く海外にいたためこの屋敷の事を知らなかったらしい。



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