僕惚れ②『温泉へ行こう!』
 エアコンを全開にした車の後部シートに隠れて、新しい下着と、ワンピースに着替えながら、車外で待つ理人をふと見やる。

理人(りひと)は、汚れてないのかな……)

 ズボンくらいは履き替えたほうがいいんじゃないのかな。

 自分が身支度を整えたら、理人のことが気になって仕方なくなる。


 私はさっきまで、白のシンプルなブラウスに、白地にモノトーンの花柄模様が入ったマキシスカートを身に着けていた。

 着替えを済ませて車外に出てきた今は、黒地に白い花弁の小柄なマーガレットが一面にちりばめられたワンピース。

 どちらも黒いサンダルにあわせられるコーディネートを、と思って選んだ服だけど、見た目の印象はがらりと変わったはずだ。

 車から降りてきた私の装いを見た理人が、一瞬目を見開いて、ほうっとため息をつくように「可愛い……」と言ってくれた。

 理人との旅行のために選んだ服。

 それを彼に認めてもらえたのが凄く嬉しくて、同時に何だかとても照れてしまった。

 照れくささを誤魔化すために、「理人は……着替えなくても大丈夫?」と聞いた。

 その言葉に、私をまぶしそうに見つめていた理人が、にこりと微笑む。

「僕は大丈夫」

 そう答えてから、私が服を全部着替える羽目になってしまったことに気がついて、「本当、僕だけ平気で申し訳ない……」と付け足した。

 さっきまで着ていたブラウスも、マキシ丈のプリーツスカートも……果ては下着も……私の服は何一つそのまま(まと)い続けることは出来ない状態だったのを思うと……何だか私ばかりが感じさせられたみたいで、恥ずかしい。
< 20 / 107 >

この作品をシェア

pagetop