僕惚れ②『温泉へ行こう!』
「ここに……」

 図々しくも、私は理人(りひと)の左手の薬指に、私の居場所を作ろうとしている。

 さすがに、引かれてしまったかな?
 不安に思いながら彼の返答を待っていたら――。
葵咲(きさき)っ!」
 不意に、理人に強く抱きしめられた。
 
 この反応は想定外で……私は彼の腕の中で少し戸惑う。

 こ、これは……喜んでくれている……って思っていいの、かな?
 
 浴衣なので、抱きしめられた眼前に、襟口からちらりと覗く理人の胸元が見えて、ドキドキしてしまう。
 鼻をくすぐるお風呂上りの石鹸の香りも、いつもより少し高めに感じられる彼の体温も、私を緊張させる。

「葵咲は、本当にそれでいいの?」

 ややして、私を抱く腕をほんの少し緩めると、理人が私の顔を覗き込むようにして問いかけてきた。

 それでいいも何も……それは私が理人に聞きたいくらいで。

「そこに指輪を()める意味、キミは本当に分かっているの?」


 左手の薬指に男女が()める指輪。
 その意味を分かっているのか?と理人(りひと)が真剣な顔で問うてくる。

「分かって、ます……」
 改めて問われると、何だかとても照れくさくなってしまった。
 耳まで一気にブワリと熱くなったのを感じながらそう答えると、理人がもう一度私をギュッと抱きしめてくれた。

葵咲(きさき)、有難う。っていうか……本当はそれ、僕から言いたかったな」

 理人にポツンとそう言われて、私はハッとする。
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