僕惚れ②『温泉へ行こう!』
 私は双方の口ぶりに、ぴりぴりとした緊張感を覚えてしまって、何だかソワソワと落ち着かない。

 その空気を何とかしたくて、「正木くん、今日はどうしたの?」と聞けば、お盆間、おじいさんとおばあさんがやっておられる商売の手伝いに行くことになっている、と。

「結構人が来るからさ。バイトがてら俺も借り出されちゃって」

 ここ数年はお盆の恒例行事なんだ、と言って、彼は苦笑した。

「大変ですね。僕たちは今から2人で旅行なんです」

 にこやかに理人(りひと)が言う。〝2人で〟というところを強調して。何だか少し自慢が入っているような?

 結局、席が向かい合わせだったこともあって、一時間余りの新幹線の道行きの間中、そんな男性陣に挟まれて、私は少しも気持ちが休まらなかった。

 表面上はふたりとも仲良く会話してくれているんだけど……。

 こんなことなら理人とドライブを楽しんだほうが良かったのかも。

 そんな風に思った。
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