僕惚れ②『温泉へ行こう!』
 正木くんの言葉に、私は段々腹が立ってきて、彼をキッと睨みつけた。

「んな怖い顔すんなって。たださぁ、そんな目立つところにキスマークつけるとか……自己顕示欲の固まりすぎるだろ。丸山が恥ずかしい思いするかも、とか考えられてねえって事だろうし」

 そこまで言って、正木くんは
「俺ならそんなこと、絶対にしない」

 そう、断言する。

 確かに言われて見れば正木くんの言葉には一理あって……でも、でも、と思ってしまう。

「わ、私! 嫌じゃない……っ!」
 理人にこういうことをされるの。

 首筋のキスマークを押さえながら正木くんの目を負けじと見つめ返した。

「そっか……。なら」
 正木くんの顔が首筋に迫ってきて――。

 私はびっくりして彼を押し戻す。
「いや!」
 はっきりと拒絶の声を発したら、
「こう言うのされるの、いやじゃないんだろ?」

 耳元で、そう、(ささや)かれた。

 正木(まさき)くんの豹変(ひょうへん)ぶりに、私は息が詰まるくらい恐怖心を覚える。
 余りに怖くて、喉の奥が引きつれて、息が上手くできなくなる。
 逃げなきゃ!と思うのに身体が(すく)んでしまって動けなくて。

 私はどうしていいかわからずに、ギュッと目を(つぶ)ることしか出来なかった。

 と、私の首筋に触れていた彼の呼吸がふっと遠くなって。
 続いて聞こえてきたドンッという鈍い音。

葵咲(きさき)、大丈夫っ!?」

 直後ふいに頭上から降ってきた優しい声と、嗅ぎ慣れた大好きな香りに、私はやっと目を開けることができた。
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