あなたに、キスのその先を。
日織(ひおり)ちゃん、修太郎(しゅうたろう)。私と健二(けんじ)はね、ご覧の通り付き合ってるの」

 言葉足らずな私の意図(いと)()まれたように、健二さんの腕にご自身のそれを絡めると、佳穂(かほ)さんは「お似合いの二人でしょう?」と胸をお張りになる。

 佳穂さんに腕を捕らえられた健二さんが困り顔をなさっているのが印象的で。

 でも、すぐに諦めたように溜め息混じりに「前に日織さんにも話したと思うんですけど、俺、はっきりした女が好きなんです」と苦笑なさる。

 そういえば前にお電話でそのようなことをおっしゃられていたのを思い出した私は、
(あれは……佳穂さんのことだったんだ)
 今更のように健二さんの言葉の真意を知ることになった。

「親の目論見(もくろみ)なんて知ったこっちゃないわ。大体私と修太郎を……っていうのだって、その方が年齢が釣り合って見えるからってだけの理由に違いないんだもの。そんな風にしか私たちを見られない親の言いなりになってたまるかってね、そう思ったの。――その思いは健二や修太郎も同じはずよ? だから……」

 そこで佳穂さんは私を正面からひたと見据えられた。

「だからね、日織ちゃん、貴女も自分の気持ちに正直になればいいの」

 今までも散々いろんな方々から言われてきた言葉。
 ここにきて、すべてが繋がった気がした。
 
 ただひとつ。

(でも……じゃあ、何故……? 何故健二さんはお嫁さんにもらう気もなかったはずの私を、市役所に入れてまで変えようとなさったの?)
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