あなたに、キスのその先を。
「ほら、つかまって。――っていうか、立てますか?」

(わわわ。信じられないのですっ。塚田(つかだ)さん、それはもしかして……私に仰《おっしゃ》っておられますか? もう、なんだかホント、夢のようなのです……)

 まるでミュージカルか何かに登場する王子様のように、私に手を差し出しておられる塚田さんを見上げて、私は彼のあまりのカッコ良さにトロンととろけて笑顔になる。

 作業着姿の私の王子様は、そんな私を見て、何故か照れたように一瞬視線をさまよわせた。

(塚田さんが私を見て照れるとか……何てご都合主義なシチュエーションなのでしょうっ! これは夢に違いないのですっ。現実でこんなこと、絶対にありえないのですっ)

 ドリーマーな私は、きっとお酒を飲んですぐ眠ってしまったんだ。

(でも、そうだ。夢の中なら私、一切の(しがらみ)から解放されて……自由になれるはずなのですっ)

 そう思った私は、普段なら絶対に言えない言葉を口の()に乗せてみた。
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