あなたに、キスのその先を。
塚田(つから)しゃん、王子様(おーじしゃま)みたいれ素敵なのれす」

 はずかしいくらい呂律(ろれつ)の回らない言葉も、きっと夢の中だから。

 一生懸命走っているのに全然スピードが出せない、とか……誰かを全力で追いかけているのに何故か歩いているはずの相手にどんどん離されちゃう、とか夢の中ではそう言うもどかしいことがまま起こるものだもの。このたどたどしくて歯がゆい口調も、きっとそんなのの一種。

「ありゃりゃ。藤原(ふじわら)さん、完全に酔っ払っちゃってますね」

 私の真正面に座った、その他大勢(おおぜい)くんの一人が、そんなことをつぶやいた。
 私はその声に、半ば条件反射で「すみません(しゅみましぇ……)」と言う。

「二人とも、すまないが僕はこのまま彼女を送っていくことにするよ。――これで支払いとか頼めるかな?」

 言いながら塚田さんが林さんたちに向いてお財布を取り出しておられるのが見えた。

(んー、渡しておられるお(さつ)が本物っぽいから……これは現実、かな?)
< 46 / 358 >

この作品をシェア

pagetop