ママになっても、極上ドクターから独占愛で迫られています
 ベンチまでやって来た大槻先生は、ごく自然な所作で傘のなかに私を入れた。

「傘もささずに、こんなところにいたら風邪を引くよ」

 咎めるわけではなく、労わるような口調に胸がきゅっと締めつけられる。優しくされて張りつめている糸が切れそうになり、それくらい自分は弱っているのだと痛感した。

 どうやら母親の容態が急変したとかではなさそうなので、安堵して正面に立つ大槻先生を見上げる。

「よく私だとわかりましたね」

 彼のように長身で白衣を着た外見なら遠目からでもすぐに本人だと気づくけれど、私にそこまで目立った特徴はない。

 それに雨が降り始めたせいか太陽が水平線に沈んだからなのか、辺りは一層暗くなっている。

「いつもここで休んでいるだろう」

「どうして知っているんですか?」

 驚いて目を瞬かせると大槻先生はチラリと建物を見上げた。

「医局から見えるんだ」

「えっ。そうなんですね……」

 他人の視線がないからとこの場所で堂々と苦悩していたのに。ということは、私が頭を抱えてうずくまっているところや、不安心で泣いている姿を目撃されていた?

 動揺が顔色に表れていたのか、大槻先生は目尻を下げて穏やかに笑う。

「見えると言っても、窓際に立って、意識的に外を眺めなければ見えないよ。俺はいつも息抜きに外の景色を見ているから気づいただけ」

 その他大勢の人たちに情けない姿を見られていなかったとわかり、ホッと胸を撫で下ろす。
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