ママになっても、極上ドクターから独占愛で迫られています
 姿が見えなくなってからも鼓動は忙しなく脈打ち、無意識に力がこもっていた指先が名刺に折り目をつけているのに気づいて慌てた。

 念のため電話番号をスマートフォンの連絡先に登録し、もらった名刺を財布にしまうとようやく呼吸ができた気がした。

 なんだか現実に起きていることとは思えない。もちろん連絡先を教えてくれたのも、ふたりで昼食をとったのも、深い意味が存在するは考えていない。

 だけど仕事もできてカッコいい男性に優しくされたら、誰だって浮ついた気持ちになるよね?

 食べかけだったサンドイッチにかぶりついて食事を終わらせると、次は母親にかかってきた電話について頭を悩ませた。

 両親の離婚原因は簡単には言い表せないほど複雑だ。

 始まりは私が高校二年生の秋頃だっただろうか。父親が友人の借金の連帯保証人になるが当事者が失踪し、代わりに父親が多額の借金を背負うことになった。

 精神的に追い込まれた父親は次第に酒に逃げるようになり、アルコール依存症になって人が変わった。

 誰にでも優しくお人好しの性格だったのに、最後の別れのときですら一度も笑わない人になってしまったのだ。
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