【2/4 番外編追加】一夜の恋じゃ終われない 〜冷徹ホテル王の甘い執着〜

「ほら、こうやって職務放棄して会いに行くと思ったから言わなかったんですよ!」
「行くに決まってるだろう! 惚れた女が泣いてるかもしれないんだぞ!」

「泣かせないためにこうして頑張ってるんでしょうが! オカン女子なんでしょう!? 自分が惚れた女を信じろって!」

 そこでようやく俺は足を止める。

 そうだった。俺は菜月との将来のために頑張っているんだ。ここでよそ見したり他ごとを考える暇なんてないはずだ。

「……悪い、取り乱した。おまえの言うとおりだ。あと、おまえはそんな言葉遣いもするんだな」
「失礼いたしました、私も取り乱しておりましたもので」

「ハハッ、まあ、悪くない。仕事中は困るが、プライベートでは構わないぞ」

 今度飲みに行くかと声をかけると、鮎川は迷惑そうに顔をしかめながらも「まあ、いいですよ」とうなずいた。

「よし、その前にまずはこの計画を成功させないとな」
「ええ、この話がまとまりさえすれば会長も奥様も何も言えないはずですから」

 ――菜月、待っていてくれ。あともう少しだから。

 通路の窓から外を見ると、白い機体が待機しているのが見えた。

 あのどれかに菜月が乗っているのかな……と目を細め、俺ははやる気持ちを抑えて歩き出すのだった。
 
< 191 / 326 >

この作品をシェア

pagetop