想い出は珈琲の薫りとともに
薫さんが顔をゆっくり近づけ、コツンと額と額がぶつかった。そして私が握った手の甲を返すと、私の手を握り返した。
「……参ったよ。そんなことを言われたら離れられない」
「あっ、あのっ。薫さ……」
表情の見えないその顔に呼びかけようとすると、リップ音を立てて額に口付けされた。
「どうしたんだい?」
唇を寄せたままの薫さんに意地悪く尋ねられる。
熱に浮かされたようなフワフワとした感覚。現実感などまるでなく、まだ夢の中を彷徨っているようだ。けれど、繋いだ手とまだ触れている唇の感触が、自分以外の熱を伝えてくる。
「流されなくていい。後悔することになるだろう?」
ドクドクと脈打つ自分の鼓動を感じ押し黙っていると、諭すような声が聞こえた。
「流されたのかも知れません。でも、後悔は……してません」
あのときを思い出し私は答える。
確かに流された。外国のラグジュアリーホテルという非日常空間に。けれど、誰でもよかったわけじゃない。薫さんだから、その人となりに触れたからこそ応じたのだ。
「薫さんは……後悔しませんでしたか?」
私たちはまだ、心の内を全部曝け出してはいない。冷静になれば、また別の感情も湧いてくるかも知れない。そう考えると怖い。けれど聞いておきたかった。
「……したよ。今でも。後悔ばかりだ」
薫さんは重々しい口調で言葉を紡ぐ。けれど真っ直ぐに私を見ていた。
「君を離してしまったこと。そばで支えてこられなかったこと。風香の成長を一緒に歓びあえなかったこと。どれも後悔することばかりだ」
「一夜を共にしたことは? 後悔して……ないんですか?」
それに薫さんは、先に態度で示した。
頭から引き寄せられその広い胸に閉じ込められると、その腕に力がこもった。
「するわけないだろう? 言ったじゃないか。愛していると」
一夜の夢じゃない。今、こうしているのは幸せな現実。だから私もそれに答える。
「私も……愛しています」
どちらともなくゆっくりと、私たちは唇を重ねていた。
「……参ったよ。そんなことを言われたら離れられない」
「あっ、あのっ。薫さ……」
表情の見えないその顔に呼びかけようとすると、リップ音を立てて額に口付けされた。
「どうしたんだい?」
唇を寄せたままの薫さんに意地悪く尋ねられる。
熱に浮かされたようなフワフワとした感覚。現実感などまるでなく、まだ夢の中を彷徨っているようだ。けれど、繋いだ手とまだ触れている唇の感触が、自分以外の熱を伝えてくる。
「流されなくていい。後悔することになるだろう?」
ドクドクと脈打つ自分の鼓動を感じ押し黙っていると、諭すような声が聞こえた。
「流されたのかも知れません。でも、後悔は……してません」
あのときを思い出し私は答える。
確かに流された。外国のラグジュアリーホテルという非日常空間に。けれど、誰でもよかったわけじゃない。薫さんだから、その人となりに触れたからこそ応じたのだ。
「薫さんは……後悔しませんでしたか?」
私たちはまだ、心の内を全部曝け出してはいない。冷静になれば、また別の感情も湧いてくるかも知れない。そう考えると怖い。けれど聞いておきたかった。
「……したよ。今でも。後悔ばかりだ」
薫さんは重々しい口調で言葉を紡ぐ。けれど真っ直ぐに私を見ていた。
「君を離してしまったこと。そばで支えてこられなかったこと。風香の成長を一緒に歓びあえなかったこと。どれも後悔することばかりだ」
「一夜を共にしたことは? 後悔して……ないんですか?」
それに薫さんは、先に態度で示した。
頭から引き寄せられその広い胸に閉じ込められると、その腕に力がこもった。
「するわけないだろう? 言ったじゃないか。愛していると」
一夜の夢じゃない。今、こうしているのは幸せな現実。だから私もそれに答える。
「私も……愛しています」
どちらともなくゆっくりと、私たちは唇を重ねていた。